高松宮記念回想

 プレシャスカフェは出遅れ。

 蛯名騎手といえば出遅れが代名詞の男、こちらとしてもそれはある意味計算のうち。しかし、いつもならその後大外をぶん回して来るはずなのだが、今日はどういうわけか内に進路を向けてきた。先週ダンスインザモアで内をついて勝った余韻が抜けきっていなかったのか。わざわざ思い出すまでもなく、中京芝コースは全距離でバックストレッチからゴールまでの部分を使うので、ローラーでもかけない限り最終週には1200m戦の内側はスタートからずっと荒れているのだ。

 その点を考えたのか、カルストンライトオの大西騎手の進路選択は見事。抜群のスタートで飛び出した後、内に切れ込んでいくのではなく、向こう正面から、コース内の馬場の荒れた部分のわずか外側をずっと走っていた。直線で一瞬、馬群に飲み込まれるかと思われた後もスピードを保ち続けたのは、GⅠ馬の底力でもあろうし、馬場の良いところを走っていてスタミナが残っていたからに他ならない。ときおり右に顔を向け、直線わずかにヨレながら走っているから、やはり右ラチに頼って云々の話は事実なのだろうが、無くとも致命的な問題ではなかったようだ。

 終わってみて上位6頭までが二桁馬番の馬で占められたのは、スタートしてから内枠の馬がずっと内の荒れた馬場を走っていたのに対して、外枠の馬がその外側から被せるようにして走っていたからであろう。内の馬は直線ほとんど止まっていた。逆を言えば、出遅れて内を突いていながらプレシャスカフェが3着に粘ったのは、馬にそれだけの力がある証明でもある。

 勝ったアドマイヤマックスは、スタートを上手く決めて直内の馬たちの前に行き、スムーズに逃げるカルストンライトオの後ろ、前に一頭置いた位置取りで追走……しながら、プレシャスカフェの直外につけて、外に出させないために蓋をしている。3コーナーからは自身で、4コーナーを回って直線に向くあたりでは、脚色が怪しくなってきたメイショウボーラーを、プレシャスカフェを外に出させないための壁として残して、自身は外に持ち出している。上手い、さすが名手、思わず唸ってしまう騎乗だ。その後は馬場の良いところをアドマイヤマックスの脚に任せて伸びていくだけ、GⅠ級といわれた脚力の持ち主が、能力を遺憾なく発揮させて、勝った。

 勝ち馬に理由はないが、負ける馬には負ける理由がある、とはよく聞く言葉だが、たしかにプレシャスカフェには負ける理由があった。馬券を買っている身としては蛯名騎手を責めて当然なのだが、駄騎乗、と決め付けるのはどうか。昨年通算211勝と88勝の腕の差がまざまざと現れた結果であった、こう書くと逆により失礼に当たるかもしれないけれど、騎手の条件を同じ土台で考えてはいけなかったのではなかろうか。

 キーンランドスワンは、位置取りを眺めると武豊アドマイヤマックスの後ろをずっと走ってきて、直線外に持ち出して内のプレシャスカフェをせんでもいいのに交わして2着。展開が恵まれた感もあったが、プレシャスにクビ、カルストンにおよそ4分の3馬身先着、前走の実力は伊達ではなかった。とはいえ、同じようなレース条件ならプレシャスにはとても叶わないだろう。

 メイショウボーラーは前走の燃え尽き症候群だろう、陣営には予定通りだろうが、放牧に出して秋の海外遠征に備えてほしい。